第4項より
「三回目の転職」
ドイツ系の半導体結晶材料シリコンウェハーメーカーの応用技術者の入社試験にパスし、新しいスタートを切った。
まず、数冊の半導体関係の本を買い求め、毎日、暇を見つけてむさぼり読み、忘れかけていた知識を呼び戻した。入社してすぐにドイツの工場へ四ヶ月の研修に行った。もちろん外資系企業の勤務は初めてであったが、五年半の欧州駐在経験もあり、外資系企業とはどのようなところか十分知っているつもりであった。
しかし、これらの予備知識と現実はまったくかけ離れていた。
普段、我々が日本で付き合う外国人、とりわけ欧米人は、表面上非常に礼儀正しく親切である。しかし、会社組織の中では欧米人はガラっと態度を変え、表面はにこやかでも、極めてプライドが高く、自意識過剰である。日本人の言う事など聞いていられるか!我々は欧米人なんだぞ!格が上なんだぞ!という態度が随所に出てくる。
ただ、このような思い上がった態度は国民性にもよるようだ。ヨーロッパではドイツ人がもっとも強く、次にイギリス人、そしてフランス人と続く。かつて一年余りを駐在したスウェーデンではあまり感じなかった。ビジネスをやる上で、このような思い上がった態度は困りものである。客先の方では、欧米人がプライドが高くても、特別に品質や納期、サービス面で大目に見てくれることは決してない。
ビジネスをやる上では、あくまで客先を主体に動かねば、厳しい競争を勝ち抜く事はできない。とくに日本市場ではこのことが重要である。
日本における外資系企業の日本人社員は、この欧米人のプライド、反応の悪さに苦しめられる事になる。しかし、このようなとき、日本人社員は決して感情を表に出してはいけない。
彼らの高圧的態度は生活習慣からきている面もあり、我々日本人のビジネス習慣があまりにも性急過ぎて、かつ客先の要求が必要以上にオーバースペックであることも考える必要がある。客先から製品に対するクレームがあった場合でも、彼らのフィロソフィー、ものの考え方の枠組みを超えて改善を要請したり、主張したりしてはいけない。平たく言えば、「ドイツ人に言われるとおりにやりなさい。その範囲でのみ一生懸命やりなさい」ということである。まかり間違っても、「日本の製品のほうが優秀だからそのとおりに作ってください」などと言ってはいけないわけだ。
度重なる製品の不良発生に客が激怒したため、著者はいつものように現場の九州工場に出向いた。日本の競合製品よりはるかに低いレベルであるという客観的データを突きつけられ、ドイツから品質管理のディレクターを呼び、ともに再訪問した。しかし、再現性のある実験データに突きつけられ、製品の納入は停止される事となった。
その後、客先の要請もあり、日本の技術担当責任者であった著者がドイツの工場へ行き、製品の品質管理チェックを行うことになり、三ヶ月にわたって品質管理(TQC)の指導および再検査を行い、そしてサンプルを納品した。結果は客先の好評を得るものとなった。ところが、このことが逆に著者の解雇へのプレリュードとなる。
なんのことはない。日本からわざわざ東洋人がきて、製品の不良を説明した事がドイツ人のプライドを傷付けたのである。著者は技術担当からはずされるようになり、閑職に追いやられた。
しかし、すぐに解雇にはならなかった。著者の長年の実績を見れば、ドイツ人もさすがにそこまでは出来なかったのである。ある日突然、ドイツ本社の技術開発担当のドクターから国際電話がかかってきた。彼は著者の行動や実績を高く評価しつつも「もう少しおとなしくしてドイツ人上司の意向を汲んで仕事をするように」と諭してきたのである。
わざわざドイツから電話をくれるとは立派なものである。中にはまじめなドイツ人もいるものだ。
さて、ここまでのストーリーは、外資系の会社ではごくごく普通にあることで、ときには日系企業でも、サラリーマン社会ではよくある話である。
問題はこれからあとである。
この会社の日本人スタッフはまったくレベルが低くて、だらしがなかったのだ。私は彼らによって差別され、しまいには私の机は通路に出されてしまった。このような事を積極的にしてきたのはドイツ人ではなく、日本人であった。閑職で黙々と仕事をしている著者に対し、ただ単にドイツ人に気に入られようと何かと嫌がらせをし、最後に解雇の引導を渡してきたのは三人の無能な日本人”外資系ゴロ”であった。そしてこの三人は、著者に対する嫌がらせがドイツ人に気に入られ、昇進していった。
これが外資系企業の典型的な姿であり、哀れな現実なのである。
著者は、かつて東欧や北欧に駐在し、パリへもたびたび行った。そして現地のヨーロッパ人を中傷したり、あるいは上司である日本人に密告してきたりする低レベルの事態には一度も出くわすことはなかった。
ところが、日本における外資系企業の日本人は、外国人上司の気に入られようとして、平気で他の日本人を中傷し、密告、足の引っ張り合いを行うのである。著者は、こんな低レベルな人間は世界中で日本人だけではないかとも思う。
ヨーロッパの歴史は、異民族による自国の占領、それに対する闘い、開放、そして外国への侵攻と、闘いの繰り返しである。とりわけ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、当時のユーゴスラビアは、オスマントルコによる長年の支配を受け、その解放闘争の歴史が、今でも国民の脳裏に、まだ歴史的事実として多く残っており、このことが子々孫々なでかたりつがれている。
他の西欧諸国でも同じようなことが言えるのである。このようなとき、自国民同士が中傷しあい、占領者に盲従していったら、その国の国民は永久に奴隷のままの扱いを受けた事であろう。
一方、日本は太平洋戦争終結まで一度も外国人に占領されたことなく、今回の敗戦まで島国の中でのみ、日本人同士、中傷、密告、足の引っ張り合いを行い、事足りていたのである。明治維新の一時期を除いて、外国人占領者に対して力強く団結する必要などまったくなかったのである。島国である日本の特殊性、国民性が、いまの外資系企業の中に悪く反映されているように思う。
著者はこの後も何回か転職を繰り返し、、現在人材紹介会社を営み、多くの外資系企業の実態を見ているが、
日本人の脳裏に染み付いた権力者追従思想がある限り、外資系企業の日本人従業員は救われる事はないであろう。 |